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連載

現代史の言霊 第1話

五月革命 1968年(フランス)
伊熊 幹雄

2018年5月号

《私は今でも英雄だ》
ダニエル・コーン=バンディ


 伝説の聖地には何もなかった。
 パリ郊外のナンテール。駅前にあるパリ大学ナンテール校は、五十年前の一九六八年、フランスを揺るがせた「五月革命」の発祥の地だった。
 今春、キャンパスを訪ねたところ、立て看板はおろか落書きも見当たらなかった。エマニュエル・マクロン大統領の大学改革に反対して、全国の大学で抗議行動が続いていた折だけに、ナンテールの平穏は際立った。日向で教科書を読んでいた女子学生は、「スト?今はそんな動きはないし。昔の話はよく知らない」と迷惑げだ。
 小ぎれいに見える校舎群は、六八年当時は味気ないコンクリートの塊だった。ナンテールはアルジェリア移民の多い、貧困街。そこにわずか四年前に作られた分校は、法学部と人文学部で一万人以上の学生でむせかえっていた。
「性の解放」から始まった
 六八年は、日本も含む世界各国で若者の抗議活動が起きた年だ。それは第二次世界大戦後のベビーブーム世代が成人に達したことに起因する。フラン・・・