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連載

皇室の風 第118話

象徴行為の循環論
岩井 克己

2018年6月号

「私はあなたに本気で怒っている」
 米国での同時多発テロから間もない二〇〇一年九月十九日夕、渡辺允侍従長に呼び出され、詰め寄られたことがある。
 この朝、渡辺は米国大使館に出向き天皇・皇后の弔意をハワード・ベーカー駐日大使に伝えた。
「両陛下には、悲劇的な状況のもとに、極めて多くの無辜の人命が失われたことを深くお悲しみで、心からの哀悼と同情の意を表したいご希望である」
 渡辺が怒ったのは、夕刊で報じた筆者の記事の次のくだりだった。
「宮内庁は、市民の犠牲の多さや欧州各国王室がそろって米大統領に弔意を伝えている状況などを考慮し、異例の伝達となったとしている」
 事前に同庁の事務方から、世界各国の元首のほとんどが弔意を伝達したとの調査結果を見せられていたためだった。
 温厚な渡辺は怒り心頭だった。
「他の王室がやっているからやったなどという低レベルの判断ではない」
 実は渡辺は弔意伝達に先立ち懇意の記者たちの意見も求めており、大半の記者が「問題ない」「当然だ」としたが、筆者は反対していた。
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