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経済

パソナの利権「企業主導型保育園」

助成金を吸い込む安倍トモ「政商」

2018年5月号公開

「待機児童対策の名目で多額の公金をばらまいた悪質な事業。助成金に群がったのは怪しいコンサルタントや建設業者だけではない」
 都内で保育園を運営する男性はこう語る。二〇一六年四月にスタートした「企業主導型保育事業」という制度がある。すでに二千億円もの助成金が支払われているが、中身はかなりお粗末だ。杜撰な制度設計による不正も露呈し始めており、今後は刑事事件になる可能性もあるという。助成金の恩恵に浴した連中の中には、「政商」として知られる上場企業、パソナの名前も挙がっており看過できない。
 この事業は、従業員の子どもを預かるための保育園を企業が運営する場合に、助成金を出すもの。従来の政策と異なり、助成事業の実施主体は自治体ではなく、内閣府の外郭団体である公益財団法人「児童育成協会」だ。また、一般の企業から広く薄く集めた拠出金が助成金の原資となっている。
「とにかく制度開始ありきだった」。厚生労働省担当の記者はこう語る。今では誰も覚えていないだろうが、一億総活躍社会のためのアベノミクス「新・三本の矢」という場当たり政策があった。そのうちの第二の矢が、「夢をつむぐ子育て支援」であり、保育園の定員を増やすことを目指した。文字通り「首相案件」(同記者)であり、制度の建てつけは二の次で見切り発車した。

保育所運営で「利益相反」

 かねてから企業が保育所を設置しやすくするように提言していたのが、政府の産業競争力会議(現・未来投資会議)であり、このメンバーの中に、パソナグループ取締役会長の竹中平蔵氏がいる。パソナといえば、「仁風林」なる迎賓館に夜な夜な政治家や官僚を集めてパーティーを開いていた南部靖之氏が代表取締役会長CEOを務める人材派遣会社だ。
 この制度により保育園の定員が拡大し、待機児童が解消されるのであれば問題はない。しかし実際には、必要もない保育所に助成金が投入され、開設したにもかかわらず定員割れしている施設さえある。さらに、工事費やコンサルティング料をピンハネする有象無象がうごめき、詐欺に近い不正受給も確認されているのだ。
 この制度は文字通りバラマキ政策だ。建物を新設する際には建設費の四分の三(上限約八千万円)が補助され、ゼロ歳児保育を行えば子ども一人につき月三十万円が支払われる。企業が設置する認可外の保育園にはこれまで公的な補助はほとんどなかった。それが認可保育園並みの助成をされるばかりか、保育士資格者がスタッフの半分だけでいいなど、「ガバガバの制度」(冒頭の保育園運営者)だ。
 現場の実態や不正については後述するが、肝心のパソナの関与について検証しよう。昨年九月、東京・飯田橋の東京しごとセンターで、企業主導型保育事業に関するセミナーが開催された。保育所設置に興味のある企業担当者向けの説明会で、主催者は都の外郭団体である東京しごと財団だ。会場では児童育成協会の担当者が制度の説明をしたが、同セミナーの実施を委託されているのがパソナだ。東京だけでなく大阪でも同様の説明会は開催されている。
 また、当該事業の指導・監査業務は、二年連続でパソナに委託されている。これは、同制度で設置された全国の保育所に立ち入り検査する業務だが、プロポーザル(提案型)入札の結果、年間数億円でパソナに業務委託された。
 パソナはこの事業の実施者側である児童育成協会と一体のようにみえるが、問題はその先だ。同社はグループ会社のパソナフォスターを使って企業主導型保育事業を開始したい企業へのコンサルティングを行い、書類申請の手ほどきをして実際の運営まで行っているのだ。四月二日には東京・千代田区で、建設コンサルティング会社など三社が共同で運営する保育所がオープンしたが、パソナフォスターが業務委託を受けている。七月にヤフー本社(千代田区)に開設される保育所も、パソナフォスターが運営を行う。
 つまり、パソナは保育所の運営者側でありながら、その指導・監査を行う立場であり、明らかな利益相反である。さらにいえば、前述したセミナーは児童育成協会の説明会でありながら、パソナが顧客企業を物色する場にもなりうる。これぞ、行司がフンドシ締めて相撲をとる、の典型だ。

「保育士派遣」でも一儲け

 ではどんな問題事例があるのか。新潟県のあるケースは、コンサルタントが言葉巧みに保育所設置に誘い込んだ悪質なものだ。コンサルタントはまず複数の企業体に保育所設置を売り込み、その際に「保育所を設置した上で運営を丸投げして委託すれば儲かる」と説明した。本来、運営費の一部を助成する制度だが、コンサルタントは試算表を提示している。入手した表をみると、子どもの人数に合わせて受け取る助成金と委託料が比較してある。たとえば、子ども十九人を保育すると助成金として約三百九十万円が入ってくる。一方で委託料は三百五十万円に抑えられるので、差し引き四十万円が企業側に残ることになる。
 話はここで終わらない。実際に保育所は設置され、この四月にオープンしているが集まった子どもは九人にとどまった。つまりそもそも待機児童が少ないエリアでも書類さえそろっていれば設置できる制度なのだ。結局儲けたのはコンサルタントと建物を建設した業者だけだろう。
 建設費での不正疑惑も後を絶たない。「東京では『カネがなくても設置できます』と営業しているコンサルタントがいる」(某施工業者)。本来は建設費の四分の三までしか補助されないが、水増しした領収書などで全額を助成金で建てるケースもあるという。また、建設助成金は二度に分けて支払われるため、一度目に架空の支払いをして資金を浮かせたうえで、助成金を受け取るという不正も確認されている。
 また、大阪府では実体のない申請を行って総額一億二千万円もの助成金を受け取った事件も起きている。このケースは本誌一七年十月号「情報カプセル」で報じたが、その後助成金が返還された。警視庁は児童育成協会に詐欺として告発するよう促したが、なぜか協会側はこれを拒絶した。ある警察関係者は「いきなり年間一千億円規模の巨額事業を財団法人に丸投げして運営させること自体が危険。今後、事件化するケースがどんどん出てくるだろう」と語る。現に、四月に入り、助成金の不正受給が発覚し初の交付取り消し処分も出されている。
 新規建設の受付は今年三月いっぱいで締め切られたが、パソナはこの制度に深く加担しただけでなく、自らも助成金の恩恵を受け続けている。さらに言えば、運営に関与していない保育園にも、同社の本業である「労働者派遣」で保育士を送り込める。手数料相場は一人当たり「八十万円」(保育園業界関係者)といわれ、パソナはどこまでいっても損をしない。同社の責任について厳しく検証する必要があるだろう。


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