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連載

現代史の言霊 第2話

六月の法悦 1979年(ポーランド・ヨハネ パウロ2世)
伊熊 幹雄

2018年6月号

《恐れてはいけない》
ヨハネ・ パウロ2世

 ドイツとロシアにはさまれた地域にはざっと二十の独立国がある。
 訪ねる国で知識層に会うたびに、「我が国は悲劇の国民」であることを強調されるので、時には白けることもある。だが、ポーランドが経験した苦難には、厳粛にならざるを得ない。
 第二次世界大戦ではドイツとソ連に国を二分割された挙げ句、最初はドイツ、次いでソ連に占領された。分割時代にはスターリンが、この国の知識層・エリート層を抹殺しようと、二万人以上のポーランド軍将校らを処刑し、多くをカチンの森に埋めた。
 そんな暗黒の時代に、カロル・ボイチェワはクラクフ大学生だった。聡明でハンサム、正義感が強く弱者に優しいスポーツマンは、独軍に大学を閉鎖され、唯一の家族だった父も一九四一年に病死して天涯孤独になった。雑多な肉体労働で戦火を生き延び、戦後は地元の神学校を立て直す作業を手伝いながら、神学の道を歩んだ。
 四六年にローマ留学が認められ、ローマ法王庁への道が開けた。
 この後は、刻・・・