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社会・文化

東京の奇怪な秘境「青ヶ島」

公共事業で生き抜く「日本最小の村」

2018年7月号

 映画「南太平洋」の舞台になったモーレア島の峰は、ゴーギャンが「古城のようだ」と形容したことで知られる。もし、かの巨匠が時空を超え、ここ青ヶ島を目の当たりにしたら「まるで要塞」と言の葉で描くかもしれない。深海から火山の噴火口だけが突き出ている。東京都心から真南へ約三百六十キロ。伊豆諸島の最南端に位置する絶海の孤島で、人口は約百六十人と日本の自治体で最も少ない。この秘境の村役場で、総額二億円超に上る不正な事務処理の横行が発覚し、その名が知れ渡った。謎めいた「要塞」へ立ち入ると、果てなき公共事業で生き抜く奇怪な実像が浮かび上がってきた。
 青ヶ島の行政区は東京都青ヶ島村で、番地はなく、どこも「無番地」。郵便物は青ヶ島村と名前だけで各戸へ届く。島へのアクセスは、交通網が発達した日本でも最難関レベル。本土の東京から島への直行便は存在しない。空路なら、羽田から八丈島を経由し、ヘリで着陸するが、一日一便で九席しかなく、一カ月前から予約を受け付ける空路は即日満席になる。濃霧が立ちこめる日も多く、着陸できなければ八丈島へ引き返す。
 空路は順調なら一時間半ほどだが、海路は十三時間近・・・