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メソポタミア「渇水」の惨状

イラクから「環境難民」が溢れ出る

2018年8月号

古代メソポタミア文明を生んだ中東の大河、ユーフラテス川とチグリス川が今夏、イラクで深刻な渇水に直面している。
 異常高温や乾燥といった気候要因、イラクの度重なる戦争や政府の無策に加え、トルコやイランなど上流国のダム建設が追い打ちをかける。「肥沃な三日月地帯」の中核は、破滅的な水不足により、今や瀕死の状態にある。

琵琶湖五個分の水が消えた

 今年は日本も猛暑だが、イラクの高温は桁外れだ。
 首都バグダッドでは六月下旬から一カ月、最高気温はずっと四十度以上が続く。七月上旬から中旬にかけては、四十五~四十八度が十日以上続いた。英国人のベテラン中東記者は、「自分の体感ではもちろん今が最悪だが、記録上もイラクの気温は上がり続けている。遠からず五十度が続くようになるだろう」と言う。
 両大河の水位は記録的に下がり、バグダッドでは今夏、市民がチグリス川を歩いて渡ることもできた。大半の首都住民にとって、「生まれてこの方、こんなことは記憶にない」という異常事態だった。
 南部の内陸デルタ・・・