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連載

新・不養生のすすめ 第18話

長生きしすぎることの損失
大西 睦子

2018年9月号

 科学と医学の進歩で、人間は、歴史上どの時代よりも長生きするようになった。「ただし、必ずしも質は高くない。医療の進歩は、死にゆく過程を遅らせるが、老化の過程は遅らせない。死が損失であることは間違いないが、余りにも長く生きることも損失」「私は七十五歳をすぎたら、生命維持のための医療は拒否します」と、米ペンシルベニア大学医療倫理・保健政策学部長エゼキエル・エマニュエル博士(六十歳)はいう。
 博士の二〇一四年の「The Atlantic」の記事「私が七十五歳で死ぬことを望む理由」は全米で物議を醸した。博士は、「年を取るにつれて身体の障害、精神的な衰えや認知症の発症率が高まり、生産性、創造性、知的貢献が低下することなどを考えると、七十五歳は、体がじょうぶで、精神的に鋭く、社会に貢献する可能性が最も高い年齢のように思える」「私が記事を書く主な目標は、人生の長さではなく、質の重要性についての議論を始めるため。多くの人が私の意見に同意しないことに全く不快を感じない」という。
 実際のところ、エマニュエル博士の意見に同意する米国人は多い。一三年の米ピュー研究所の調査では、多くの米・・・