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連載

新・不養生のすすめ 第19話

手術を拒否する勇気
大西 睦子

2018年10月号

 米カイザー・ファミリー財団のニュースに、長年、心不全や慢性肺疾患など、様々な健康問題に苦しむマキシン・スタニッヒさん(八十七歳)の話がある。スタニッヒさんは、「心肺蘇生の拒否(DNR)」を指示していたが、二〇〇八年、サンフランシスコに旅行中、息切れのために緊急治療室へ運ばれ、胸部に除細動器が埋め込まれた。除細動器は、心臓の状態を常に監視し、危険性の高い頻脈が起こるとすぐに電気ショックにより、心臓の正常な動きを取り戻すための装置だ。
 スタニッヒさんは、DNRにもかかわらず、緊急治療室の医師が除細動器を示唆したときに、説明の意味がよくわからずに同意した。なぜなら、彼女の世代の多くの米国人にとって、医師は神様で、決して医師に疑問を呈したことはないからだ。また、ウィスコンシン大学マーガレット・シュワルツ准教授は、高齢の患者は、保険(六十五歳以上を対象とした公的健康保険メディケア)が医療費の大部分を負担するため、手術の金銭的苦痛を感じないことが多いと指摘する。除細動器の総費用は約六万ドルだが、除細動器が埋め込まれている米国人の一二%以上は八十歳以上だ。
 こうして米国では・・・