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経済

トヨタ章男「ケイレツ再編」の難路

日米交渉と孫正義「提携」の真相

2018年11月号

 二年前の十二月七日朝、経団連の幹部たちは苦り切った表情で、トランプ米次期大統領が孫正義ソフトバンクグループ会長兼社長とがっちり握手する映像を眺めていた。大統領選挙のわずか一カ月後、孫氏はニューヨークのトランプタワーを電撃訪問し「米国内の新興企業などに五百億ドル(約五兆七千億円)を投資して五万人の雇用を創出する」と表明。トランプ氏は取材陣の前で「マサは本当にグレートな男だ」と絶賛した。
 当時、経団連もあらゆるルートを駆使してトランプ氏への接近を図っていたが、相手にされない。新しい権力者に尻尾を振る孫氏の行動は「スタンド・プレー」(経団連幹部)と、冷ややかに受け止められた。しかし間違っていたのは、日本の経済界の中枢や安倍政権の通商政策担当者の側だった。彼らは「反エスタブリッシュメント」というトランプ政権の本質を十分に理解できず、事実上の日米自由貿易協定(FTA)交渉を受け入れ、トヨタ自動車は系列の見直しを迫られる事態を招いた。
 トランプ氏は、政権が発足すると直ちに環太平洋経済連携協定(TPP)から離脱。これほど明確なメッセージにもかかわらず、安倍政権は米国のTPP・・・