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社会・文化

「横浜カジノ」に群がる輩たち

地元と政界で「利権争い」が勃発

2018年11月号公開

「自分一人で偉くなったような顔をして……。小此木にどれだけ世話になったんだ? そんな恩も忘れてるようじゃどうしようもないな、あの男は」
 そう語るのは藤木幸夫。横浜市に本社を置く港湾運送会社「藤木企業」会長にして、横浜港湾協会会長、横浜エフエム放送社長、元横浜スタジアム会長などなど、錚々たる肩書を持つ藤木は、知る人ぞ知る横浜の「大立者」である。藤木が“寝てしまう”と横浜市の行政は機能不全を起こしてしまうほど、その影響力は今も絶大だ。
 その「ハマのドン」、藤木が怒っている。怒りの矛先を向けているのは官房長官、菅義偉。横浜を地盤とする菅は、藤木を後ろ盾としてのし上がって来た政治家だ。菅が頭の上がらない唯一の人物が藤木といってもいい。
 藤木が口にした小此木とは、かつて菅が秘書として仕えた小此木彦三郎のことだ。元通商産業大臣を務めた大物政治家で、菅はこの小此木の秘書として政治を学んできた。菅にしてみれば、今日の栄達の恩人である。藤木はわざわざ小此木の名前をあげ、菅を恩知らずと断じ、罵ったのである。
 一体何が起きたのか。

「ハマのドン」の反対の真意

 IR(統合型リゾート)法案、いわゆる「カジノ法案」成立前から、横浜は最も有力な候補地の一つとされてきたが、昨年来、法案を推進した永田町の面々は、藤木の言動に振り回され続けてきた。
 藤木のまさにお膝元、山下埠頭は横浜がカジノ誘致に手を挙げた場合、最も有力な場所だ。そのためか、当初、藤木周辺から聞こえてきたのは鼻息の荒い推進の声ばかりだった。ところが今年に入るや、それが一転する。
「ギャンブル依存症になる対策もできていないようなものを許す訳にはいかない」
 こんな言い方で、カジノ推進に反対の姿勢を示したのだ。同時に、後ろ盾となってきた菅とも距離を取り始める。藤木に近い関係者によれば、菅が藤木に相談なく、マカオのカジノ運営会社と連絡を取り合っていたことに激怒したという。それが冒頭の言葉につながったのである。自分の名前ではなく、わざわざ小此木を持ち出したのは、藤木の深謀遠慮だ。
 しかし、藤木の“待った”とは別に、藤木の長男幸太(藤木企業社長)らは、小此木八郎(彦三郎の三男で衆議院議員)らと共に運営会社を作り、カジノを目当てにしたホテル建設に乗り出している。
 また京浜急行電鉄も、およそ四年前にいち早くカジノ、ホテルなどの一体開発を表明している。同社では二年後、日本への返還が始まるとされている横浜市中区、南区、磯子区に跨がるおよそ十三万坪(約六五%が国有地)にも及ぶ在日米軍住宅地区、通称“根岸住宅地区”の大々的な再開発も視野に入れ、並々ならぬ覚悟で計画を練り上げようとしている。事実、京急はすでに防衛省OBを通じて、省内の情報を集めている。OBとは表向きの雇用関係はないとしているが、事実上のコンサルタントとして業務委託をしている。

中国勉強会と「横浜八社委員会」

 こうした京急の動きに呼応したかのように、横浜市に深く関与している企業八社(京急、サントリー、キヤノン、みずほ銀行、大成建設、東京建物、電通、JTB)が共同で事実上の「横浜カジノ招致推進委員会」を内々に結成した。横浜でのカジノといえば、藤木の独壇場だっただけに、言わば藤木の意向とは無関係に、新たな動きが起きているのである。
 横浜市の“顔役”としては許すべからざる状況が起きているにもかかわらず、当の藤木は悠然と構えている。もう一人の大物政治家、自民党幹事長の二階俊博がいるからだ。藤木が菅と距離を置き始めたのとほぼ同じ頃、藤木は二階と急接近していた。
「俺と二階さんとは義兄弟みたいなもんだ。俺が年上だけど二階さんが兄貴みたいなもんだ」 
 八十八歳の藤木が七十九歳の二階を“兄貴”と呼ぶ。その出自に何とも相応しい任侠の世界というべきか。とはいえ、二人が会う時は、決まって二階が横浜まで足を運ぶ。二人を結びつけたのは、言うまでもなくカジノだ。藤木が難癖をつけ、カジノ誘致を牽制しているのは、要は山下埠頭の価値を上げるブラフに過ぎない。
 寝首をかくような菅とは組まないが、自分に礼を尽くす二階とはやっていけると踏んだのだろう。利権で結ばれた関係だ。
 そうして見ると、前述の「横浜八社委員会」も別の風景に見えてくる。二階の臭いがしてくるからだ。どういうことか? 二階が中国と深い関係にあることは政界、財界では知らぬ者がいない。二階はその中国で築き上げた人的な財産を、後継者で今は政策秘書を務める三男、伸康にどう引き継ぐかに腐心している。そのためにある勉強会を作っている。表向きは中国の伝統思想を学ぶ勉強会だ。
 外務省中国課の中堅官僚が出席し、二階と親密な企業から永田町担当者が顔を揃える。伸康がかつて勤めていた全日空を中心にして、キヤノン、JTBといった企業の名前がずらりと並ぶ。いくつもの会社が「横浜八社委員会」とダブっているのは偶然だろうか?
 菅と後見人の藤木との間に深い楔を打つ二階。その引退後、二階派の丸呑みを狙っている菅の心象風景を二階は百も承知しているはずだ。それを知った上で藤木との「義兄弟」の関係に重きを置く二階。したたかと言うべきか。
 そんな二人の間を行き来し、利権に与ろうとしている輩も登場する。和田誠一がそれだ。横浜市で学習塾を起こし、そこから成り上がって香港と東京とを股にかけるフィクサーとなった人物だ。和田の名前が大きくクローズアップされたのは、消費者金融大手「武富士」の香港での資金調達に辣腕を振るい、同社創業者が亡き後、長男への生前贈与課税問題でも暗躍した一件だ。自民党の下村博文とは同じ学習塾経営時代から親交があり、下村の有力なスポンサーでもある。
 藤木は今も菅と距離を置き、二階との蜜月が続く。その菅には、横浜以外にもう一手、腹案がありそうだ。十月十五日、東京・赤坂のキャピトル東急ホテル内の「オリガミ」で、菅は千葉県知事の森田健作と会食している。菅は最近、IRに関して「湾岸構想」という言葉をしばしば使うようになった。その意味するところは、東京湾アクアラインの先の千葉エリアにありそうだ。藤木との関係が修復されれば横浜、そうでなければ千葉でも―。菅は天秤に掛けるつもりかもしれない。
 カジノの甘い蜜を吸おうとする政治家、企業、そして利権屋。「カジノ狂騒曲」の本番はこれからである。(敬称略)


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