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連載

皇室の風 第123話

聖性と世俗性
岩井 克己

2018年11月号

 古今東西を問わず世襲の君主制では、多かれ少なかれ連綿と続く血と伝統の継続性と神話が君主のカリスマ性の基盤だ。世界各地の神話を比較して、天皇と記紀神話の位置づけを試みた人類学者大林太良は、始原的な伝統社会を例に次のように紹介している。
「個人はきわめてはかない存在である。永久で不死なのは個人ではなく、氏族とか王権のような制度である。そして制度というものは(略)神とか始祖とか英雄が創始したから存在している。(略)その人格は仮面とか玉座とか聖火とか、いろいろな目に見える象徴として現前している。王国を創始した始祖の代理人は、現在の王であり、ある意味では王は始祖自身である。王はその集団のあらゆる人びとのなかで、いちばん始原(始祖)に近い人物であり、すぐれて聖なる何物かを内蔵している」
 そして多くの王権神話が近親婚のタブーを破ることで王に聖性を与えたとして、記紀神話でイザナギ、イザナミが大八洲や神々を生み、アマテラスとスサノヲがウケヒ(祈誓)によって神々を生んだ記述に兄妹(姉弟)婚神話の痕跡をみている(『日本の古代11ウヂとイエ』所収「親族構造の概念と王家の近親婚」)。{b・・・