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連載

皇室の風 第125話

「徳富もよく勉強している」
岩井 克己

2019年1月号

皇太子明仁親王に戦後の象徴天皇の心得を教えるため、東宮御学問常時参与小泉信三が選んだのはハロルド・ニコルソンの英国王ジョージ五世伝だった。
 小泉は、昭和二十八(一九五三)年、エリザベス英女王の戴冠式参列のための皇太子訪欧の準備中に、駐英大使松本俊一から贈られて読んだのがきっかけだったと述懐。立憲君主国の君主の伝記として当時もっとも新しく詳しいもので、君主の公私の日常について多くの話題が含まれていたことなどを考えたと振り返っている。
 しかし、本当にそれだけだったのだろうか。
 よく知られているように、昭和天皇は、皇太子時代の訪欧の際にジョージ五世に温かく迎えられ、立憲君主の心得を深く学んだと繰り返し記者会見などで述べている。
「イギリスのキング・ジョージ五世が、ご親切に私に話をした。その題目は、いわゆるイギリスの立憲政治の在り方というものについてであった。(略)その立憲君主であることが、私のもう終生の考えの根本であります」(昭和五十四年八月二十九日)
「皇太子時代、英国の立憲政治を見て、以来、立憲政治を強く守らなければと感じました。し・・・