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社会・文化

肺がん検診は 「見落とし」だらけ

「訴訟ラッシュ」に怯える医療機関

2019年1月号

 手元に「UpToDate」と題する世界的に有名な臨床医向けのマニュアルがある。肺がんスクリーニングの稿には「胸部X線検査と喀痰細胞診検査を用いた肺がんスクリーニングは推奨しない」と明記。その理由として、過去の七つの大規模臨床試験の結果を紹介している。このうち六つは、被験者を無作為にX線検診群と何もしない群に割り付けるランダム化臨床試験で、二十年以上にわたり経過を観察した。臨床研究としては、最高のエビデンスレベルだ。
 東京・杉並区の河北健診クリニックで区の肺がん検診を受けた四十代女性が、がんを見落とされ死亡した問題は、我が身を守る検診の信頼性を失墜させた。運営する社会医療法人「河北医療財団」が設置した特別調査委員会は、検診画像を読影する際の体制に問題があったとする調査報告書を公表したが、この瑕疵は決して特殊な事例などではない。そもそも胸部X線写真という手法が時代遅れなのだ。この問題をきっかけに、肺がんを見落とした医療機関を相手取る訴訟も頻発しかねない。初期がんを見つけられないザルの検査をいつまで続けるのか。

X線の早期発見はわずか三〇%・・・