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連載

皇室の風 第126話

「過ぎたるは及ばざるがごとし」
岩井 克己

2019年2月号

「過ぎたるは及ばざるがごとし!」
 若き皇太子妃時代に時折、こう一喝されたと美智子皇后が懐かしがっていたと聞いたことがある。
「安倍能成さんって、怖かったのよね」
 文相や学習院長も務めたオールド・リベラリスト安倍は、敗戦の焼け跡からの皇室の立て直しに奔走し多くの学者、文化人らと皇室との橋渡しに努め、皇太子の教育の相談役でもあった。民間出身で、何事も通り一遍ですませられぬ性分の皇太子妃が多くの人々との縁を深めたがると、こんな風に諌めていたらしい。
 戦後昭和の時代の宮中では、新憲法下の象徴天皇制の運用でも「天皇は一視同仁」「自制が大切」との考え方が支配的だった。「特定の人と接すれば、他の多くの人々との不公平を生む」と。
 しかし、皇太子夫妻としての三十年間の多彩な経験の上に、天皇・皇后として「象徴としての望ましいあり方」を模索する三十年を積み重ねて、災害や戦争の現場に立ち、一人ひとりに直に接し、時にひざを折って言葉を交わす「平成流」はすっかり定着した。
 大きな転機は伊豆大島の噴火災害ではなかったかと思う。
 昭和六・・・