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連載

現代史の言霊 第10話

二月の序曲  1998~99年(コソボ紛争)
伊熊 幹雄

2019年2月号

一九九八―九九年
《意図は最善だが、結果が最悪だった》

ヴチッチ大統領(セルビア共和国)

 コソボの首都プリシュティナに、「グランド・ホテル」がある。まだユーゴスラビアだった時代の一九七八年に建てられた。「五つ星ホテル」ながら、筆者が初めて訪ねた九〇年代初頭には、じわじわと劣化が進んでいた。
 中に入ると、薄暗い。ロビーにたむろしていたアルバニア系男性たちが、一斉にこちらをにらむ。廊下も暗く、部屋の寝具は薄っぺらで、つい臭いをかいだ。
 このホテルは間もなく、「何がグランドで、どこが五つ星なのか?」と話題になった。コソボ取材をする、世界中の記者が泊まったから、悪評は知れ渡った。コソボという場所も、そこに住むアルバニア人も、第一印象が悪かった。
 時は移って、九九年春。
 コソボ紛争取材で、今度はベオグラードの「インターコンチネンタル・ホテル」である。こちらは広々と明るく、カフェはフランス風の菓子を出した。セルビア人は世界でもトップクラスの長身で、若い男女は特に堂々と見える・・・