三万人のための情報誌 選択出版

書店では手に入らない、月刊総合情報誌会員だけが読める月間総合情報誌

連載

あるコスモポリタンの憂国 連載48

遊びと仕事、哲学する時間と空間
清華大学招聘教授 紺野 大介

2011年1月号

 偶然に偶然が重なって南インド洋の島モーリシャスで一日過ごしたことがある。十五年ほど前。
 殆どが珊瑚礁で出来ているかのような美しさで、思いもかけない休日となった。ここは大航海時代にポルトガル人によって発見された無人島。その後オランダ人によりモーリシャスと名付けられ、フランス、イギリスの統治時代を経て独立した。面積はルクセンブルクより小さい。日本の大使館や領事館もない。公用語は英語だが日常語はフランス語といったバイリンガルで、長い間の植民地時代の影響からか、至る所にヨーロッパのような洗練されたコスモポリタン的風景があった。「トムソーヤの冒険」で一躍成功したが、金融投機の失敗で財産の殆どを失った作家マーク・トウェイン(本名サミュエル・L・クレメンス)は、お金を稼ぐ目的で世界中講演旅行にでかけることになったらしい。しかしこの楽園に来たとき語ったとされる「神はモーリシャスを作り、それを真似て天国を作った!」──との逸話が真実味を帯びて伝わってくる。
 日本人である筆者の日常性の中でこのような南半球の偶然は又とない。首都ポート・ルイスといった予想される喧騒を避け、北西部のか・・・