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連載

現代史の言霊 第12話

四月の晩秋 1977年(ドイツ赤軍テロ)
伊熊 幹雄

2019年4月号

一九七七年
《あんたの立場はいったい何なのさ》
ベッティナ・レール(ドイツ赤軍創設者の娘)


 ナチス独裁を経験したドイツは、三権分立を物理的に保障する。連邦議会や首相府のあるベルリンから遠く離れた中都市カールスルーエに、連邦最高裁判所、連邦検察庁、憲法裁判所などの司法権力を集め、「司法首都」としている。
 人口は約三十万人で、時間の流れはゆったりとしている。「ヴィリー・ブラント大通り」の名がつく目抜き通りは、現在でもがらんとして見晴らしはよい。
 一九七七年四月七日の朝。
 モルトケ通りから大通りに入ろうと信号待ちしていたメルセデスに、二人乗りのオートバイが近づき、突然銃声が鳴り響いた。計十五発が発射され、車内の三人は致命傷を負った。猛然と走り去るスズキGS750は当時、「世界最速の単車」で、またたく間に姿を消した。それでも、複数の目撃者には、後部の女性の姿が目に焼き付いた。「あれは女だ。間違いようがない」と、四十年以上経た今も、男性目・・・