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連載

美の艶話 第40話

乳房を吸わせる慈愛
齊藤 貴子

2019年4月号

ハリー・ホランド作《恋人たち》
テート・ブリテン美術館所蔵



 物事には順序があるとか。だとすれば、大抵の場合、女がこの世で最初に出会う男は自分の父親ということになる。
 何であれ、最初の男のインパクトは強烈。昨今巷を騒がせている虐待事件のような、娘の未来どころか生命まで台無しにする悲劇は唾棄すべき論外として、大きくなったら絶対に父親と結婚する!という微笑ましい勘違いが幼女にしばしば起こるのは、当然といえば当然。
 人は自分を愛してくれる者を、無条件に愛するようになる。だからこそ、初めて自分を無条件に愛してくれた父という男に何かが起これば、全力で助け支えようとする。
 孝とは正にこのことであって、古今東西、父親想いの娘の孝行譚は枚挙に暇がない。なかでも別格―というより、並の息子には間違っても真似できそうにない孝行話のひとつが、古代ローマの歴史家ウァレリウス・マクシムス作『著名言行録』第五章第四節のエピソード、人呼んで「ローマの慈愛」だ。
 まあ、無理もない。これは死刑執行・・・