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連載

本に遇う 第233話

異を立てるということ
河谷 史夫

2019年5月号

 何が起きるか分からない。まさか「云々」を「でんでん」と読んだ国語力のお方に、万葉集の講義を受けるとは思わなかった。
「万葉集は、千二百年余り前に編纂された日本最古の歌集であるとともに云々」。その中の一節、「初春の令月にして 気淑く風和ぎ云々」から取った元号「令和」には「人々が美しく心を寄せ合う中で、文化が生まれ育つ、という意味が込められている」との御講説に感じ入ったことである。
 それにしても「平成最後の閉店セール」から「平成最後の春場所」まで、「平成最後」の大合唱がやっと終わったら、今度は「令和饅頭」だの、「令和ヌードル」だのと喧しい。日本人はかくも元号好きであったのだろうかと訝しい。いやこれはひたすら一様に元号2で煽るマスコミのせいなのではないか。聞かれれば何か言うだろうが、人々が元号にそれほどの関心を持っていたとはとても思えない。
「正月原稿に年号問題をとりあげそこねたのが残念」と「在東京、新聞社勤務」の小和田次郎が『デスク日記』に書きつけたのは一九六五年一月一日である。
「昭和何年などという王朝名を使っているのは、もはや日本ぐらいのもの・・・