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経済

製薬大手「骨粗鬆症ビジネス」の腐臭

巨額マネー「ばら撒き」で医師と癒着

2019年4月号公開

 急速に高齢化する日本の宿痾だろう。年を重ねれば筋力は落ち、骨は脆くなる。転倒で骨折し、寝たきりになる人も珍しくない。近年、整形外科の患者は激増している。大腿骨頸部骨折は年間十五万件超。骨の量が減って弱くなり、骨折しやすくなる「骨粗鬆症」の患者は一千二百八十万人に上る。膝関節の軟骨の質が低下し、歩行時に膝が痛む「変形性膝関節症」は二千五百三十万人。どれも膨らむ一方で、裏を返せば、製薬企業にとって商機である。競争激化で、医師を札束で囲い込む癒着が常態化。その利権構造からは、患者など二の次の腐臭が漂う。
 骨粗鬆症の他にも、加齢による脊椎骨の変形で歩行障害などを引き起こす「腰部脊柱管狭窄症」が二百四十万人、免疫の異常で主に手足の関節が腫れたり、痛んだりする「慢性関節リウマチ」は七十万人……。骨に関わる病気は今や「国民病」の様相で、この領域での新薬開発が活発化している。

分かりやすい利益相反

 骨粗鬆症の治療薬として、二〇一一年に中外製薬がエディロール、旭化成ファーマがテリボン、一三年には第一三共がプラリアをそれぞれ発売した。直近の売上高はエディロール三百二十九億円(一八年、前年比一一%増)、テリボン二百六十八億円(一七年度、一二%増)、プラリア二百三十二億円(一七年度、二九%増)といずれも伸長著しい。リウマチ治療薬も急成長している。〇八年にアッヴ
ィとエーザイがヒュミラ、一一年に田辺三菱製薬がシンポニーを世に出した。一七年度には、それぞれ四百三十四億円(前年度比一五%増)、三百二十一億円(同二九%増)を売り上げる躍進ぶりである。
 骨粗鬆症、リウマチともに慢性疾患で、いったん治療薬を使い始めると、長期間にわたり継続する。しかも患者数は年々増えているので、薬の売り上げは雪だるま式に増えていく。現在、骨粗鬆症の治療薬の市場規模は約二千三百億円、リウマチは約二千五百億円に達する。現在、鎮痛剤の約一千七百億円を含めて、六千五百億円の売上高が見込まれる巨大市場だ。この領域を取り仕切るのは、一昔前まで「骨切り医者」と揶揄されていた整形外科医。その数は二万一千二百九十三人で、医師全体の七%を占める。一躍、製薬企業の営業の対象として脚光を浴びることになった。
 医療ガバナンス研究所などが立ち上げた製薬マネーのデータベースによると、一六年度に製薬企業から整形外科医へ支払われた講演料などの総額は約十二億四千万円で、支払先として目立つのは大学教授。日本整形外科学会の理事の平均受領額は百九十八万円。全ての整形外科医の中で、最多は宗圓聰・近畿大学教授で九十八件の講演などをこなし、総額一千五百四十三万円を受領していた。宗圓教授は京都大学を卒業し、日本骨粗鬆症学会の理事長。「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン」作成委員会の委員も務める。ガイドラインは医師の処方に影響するため、作成する医師と製薬企業との利益相反が問題視されて久しい。
 宗圓氏はどうかと言えば、限りなく黒に近い。骨粗鬆症治療薬を販売する第一三共から三百二十四万円、旭化成ファーマから二百七十九万円、帝人ファーマから百七十万円、アステラス製薬から百五十万円をもらっていた。これを利益相反と呼ばずして何と言うのか。ガイドラインには「ガイドラインの作成委員および執筆者は(中略)、利益相反状況を日本骨粗鬆症学会に申告している」とあるが、もはやお題目だ。
 二位以下は松山幸弘・浜松医科大学教授の八百八万円、これに田口敏彦・山口大学教授七百八十五万円、斎藤充・慈恵会医科大学准教授七百八十五万円と続く。整形外科医が安直なアルバイトに勤しむ実態が浮かび上がる。

医師への金銭供与競争

 福島県立医科大学は医局を挙げてバイトに精を出す。トップは菊地臣一・常任顧問。一九九〇年に整形外科教授に就任し、二〇〇八~一六年まで理事長を務め、震災復興をリードしたことになっている。だが菊地氏は、一六年度に二十九件の講演などで三百九十四万円を懐に。その部下も菊地氏に倣う。紺野愼一主任教授は五十五件で五百三十七万円、矢吹省司教授は三十七件で四百六十五万円をゲットした。福島復興よりもアルバイトに精を出したかのようだ。いわき市立総合磐城共立病院(当時)「地域医療連携室だより」によれば、整形外科医の不足に悩むいわき市が紺野教授に相談したところ「寄付講座をつくっては、とご指導」を受けた。いわき市は福島県立医大に三億円を寄附し、三名の整形外科医を派遣してもらった。
 製薬企業が一六年度に整形外科医へ支払った約十二億四千万円の企業別内訳上位は、最多の旭化成ファーマが一億一千八百七十二万円。次いでファイザー一億一千九十二万円、中外製薬九千九百九万円、第一三共九千三百六十七万円、日本イーライリリー八千三百十一万円、久光製薬七千二百五十八万円の順。ファイザーと日本イーライリリーを除き、内資系企業が名を連ねる。いずれも海外で売れる大型医薬品がない。日本では薬価の切り下げが続き、先進国で唯一、医薬品市場が縮小。新薬を開発するまで食いつながねばならない。整形外科は、彼らにとって成長が期待できる希少な領域なのだ。
 整形外科領域で複数の企業が同じような薬を販売していることも医師への供与競争に拍車を掛ける。「薬効に大した差はない」(都内整形外科医)がゆえ、製薬企業は他社に先んじて有力な医師を囲いこまなければならない。
 濡れ手で粟のアルバイトを続けていると、本業が疎かになり、医療ミスも頻発する。例えば、一四年四月に国立国際医療研究センター病院の整形外科で起きた一件。入院中の患者が、脊髄造影検査で脊髄腔への投与が禁忌とされる「ウログラフイン」という尿路造影剤を投与されて命を落とした。担当した研修医は、一五年七月に東京地裁から業務上過失致死罪で禁錮一年、執行猶予三年の判決を受けた。
 院長だった中村利孝氏は骨粗鬆症を専門とする整形外科医。〇七年に日本骨粗鬆学会理事長、日本整形外科学会理事に就任した。一一年に旭化成ファーマが発売したテリボンの臨床開発を主導し、判明分だけで一三年度に同社から五百八十六万円の講師謝金などを受けた。新薬の承認を審査する厚生労働省の薬事・食品衛生審議会の部会の委員も務めていたが、利益相反を報告せず、一五年六月に辞任へ追い込まれた。お膝元で起きた医療ミスで監督責任を認めず、一六年三月まで病院長にとどまり、製薬企業との付き合いも続けた。
 この不誠実な対応は、整形外科医療の病巣を物語る。高齢者を食い物にする製薬企業と医師の癒着。その代償を払わされるのは老いゆく国民なのだ。


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