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「中華思想」が中国を弱体化させる

楊海英(文化人類学者)

2019年6月号

 ―米中貿易戦争など、中国が国際政治の多くの火種になっています。

 楊 摩擦の背景には、漢民族を世界の中心と見なす「中華思想」がある。このため他の民族や文化、宗教に不寛容で、関心も低くなる。
 ところが、その根底にある「中国(=漢民族)四千年の歴史」という歴史観は、全く史実と異なっている。中国人の願望や空想の表れでしかない。
 現代の中華思想は特に、阿片戦争以降の米欧列強、さらに日本の侵略を経て、「優れた文明が暴力で蹂躙された」という「被害者史観」が非常に強い。いわば「コンプレックスとしての中華思想」で、これが自己中心的な外交、内政に表れる。

 ―中国の歴史観は誤りですか?

 楊 現在の中華人民共和国がある地域は、歴史的にチュルク系、モンゴル系、ツングース系など様々な民族が住み、栄枯盛衰を繰り返した。
 王朝の系譜をたどっても、鮮卑族が建国した唐、チンギス・ハーンを祖とする元、満州族の清があり、宋の時代も遼(キタイ)、大夏(・・・