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連載

Book Reviewing Globe 423

「治水」こそ中国の難題

2019年8月号

 中国の歴史と文明を規定してきた最大の要因は水であり、王朝の寿命も「治水」という政治の統治の質によって多くを左右されてきた。
 このような「水の王国」としての中国の歴史はこれまでも知られてきた。そうした水の地政学が二十一世紀の中国で再び、切迫したテーマとして浮かび上がってくるのではないか。本書はこのテーマの巨大さと複雑さを歴史的に浮かび上がらせようと試みている。
 中国の二大河川のうちすでに黄河は末期症状にある。現在の黄河の水量は一九四〇年代の十分の一に減っている。工場排水と農業用水がこの川の水を使えなくしてしまった。気候変動による乾燥化も進んでいる。環境学者の中には、北京はいずれ砂漠となると予測する向きもある。
 揚子江の水を北京などの北部の乾燥地域に調達する「南水北調」という大インフラ改造が実施され、現在、北京の水危機は回避されているが、それでも北京が「急迫した水欠乏」状態である事実は変わらない。
 一方、北に水を召し上げられる揚子江は洪水が頻発している。こちらは世界最大の三峡ダムを完成させたが、土砂が流れ込み、それが沈殿し深刻な問題を引き起・・・