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連載

新・不養生のすすめ 第29話

終末期患者に「死期」を知らせる必要
大西 睦子

2019年8月号

「また先生と話ができるって約束してね」
 二十年ほど前の研修医時代に担当したSさんの最後の言葉だ。Sさんは急性白血病のため、いくつかの抗がん剤を組み合わせて治療を始めたが、タチの悪いタイプの白血病で効果がなかった。抗がん剤を投与したことで正常の血液細胞もダメージを受け、みるみる免疫力が下がり重症の肺炎を合併した。抗生物質は全く効かず、しだいにSさんは体に酸素がうまく取り込めなくなり、酸素マスクを付けることに。それでも呼吸苦は悪化し、挿管して人工呼吸器をつける以外、生きる手段がなくなった。
 人工呼吸器はいったんつけ始めると、鎮静をかけるため会話はできなくなる。白血病や肺炎がよくなる見込みは低く、人工呼吸器につながったまま亡くなる可能性が高い―、私は指導医とともに、Sさんの両親に状況を説明した。それでも両親からは、「できることは全てやってください」と懇願された。闘病生活によって娘が壮絶な苦難を味わっていることを知りつつも、娘を失う恐怖の方が勝った決断だったと思う。
 Sさんと私はちょうど同じくらいの年齢だったので、入院中毎日色々な話をして友情が芽生えた。そん・・・