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連載

現代史の言霊 第17話

九月の抗議 1989年(東ドイツの平和革命)
伊熊 幹雄

2019年9月号

一九八九年
《われわれこそが国民だ》

東ドイツ平和革命のスローガン


 本誌八月号で紹介した「汎ヨーロッパ・ピクニック」の、少し後のことである。
 一九八九年の夏、八万五千人もの東独国民が、二度と戻らぬ決意でハンガリーに押し寄せた頃。東独の社会主義統一党(SED=共産党)政権は、何も起きていないように、懸命に取り繕っていた。
 同年九月四日夕、西独の公共放送「ARD」に仰天のニュース映像が飛び込んできた。
 東独ライプツィヒの見本市取材を認められたカメラマンが、近くの聖ニコラス(ニコライ)教会前で、数百人が民主化要求デモをしている現場に遭遇した。「開かれた国を 自由な国民とともに」と、手書きの横断幕があった。
 次の瞬間、人相の悪い、ジャンパー姿の男たちが姿を見せた。横断幕を引き倒し、デモ参加者に襲い掛かった。若い女性が地面に倒された。だが、治安要員と思われる男たちは、カメラに気づいたのか、明らかに暴行は控え目だった。二百人以上のデモ隊が、治安要員に向け抗議の声・・・