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社会・文化

《日本のサンクチュアリ》大嘗祭

「前例踏襲」政治の怠慢と皇室の危機感

2019年11月号

 天皇陛下の即位を披露する街頭パレード「祝賀御列の儀」の延期について、首相官邸は相当に渋った。十月二十二日の「即位礼正殿の儀」に参列するため百九十一カ国・機関の代表が来日した皇室外交は本来、主役は天皇皇后だが、そのうち六十二人との「マラソン会談」を五日間通しでこなした安倍晋三首相にとっては、米国大統領や中国国家主席にも負けない「世界のアベ」を演出する最高の晴れ舞台だからだ。パレードは一連のイベントが最高潮に達するハイライトである。膨大な警備や民間の協力態勢を組み直すためらいもあった。
 七十一河川が決壊し、死者・行方不明者九十五人の大惨事となった台風十九号が東日本を襲ったのは十月十二、十三日。即位の礼の十日前だ。日に日に被害の深刻さが明らかになり、青ざめた記者団の質問に菅義偉官房長官は十五日午後の定例会見でも「淡々と準備を進めていく」と断言。マスコミは「予定通り決行」と報じた。だが、官邸の頑な姿勢に皇室は強い危機感を抱いていた。宮内庁では同日、西村泰彦次長が記者会見で、天皇皇后が被災状況に「大変心を痛めておられます」と発言。併せて、同月二十日に八十五歳の誕生日を迎える上皇后美・・・