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連載

本に遇う 第241話

新年に亡き人を偲ぶ
河谷 史夫

2020年1月号

 大晦日、昔は紅白歌合戦を見たが、今は見ない。見ても歌手に馴染みがない。歌も知らない。けばけばしい演出には辟易するばかりだ。紅白を見ずに、酒を呑む。呑みながら、読売新聞政治部の記者だった詩人中桐雅夫の「新年前夜のための詩」を読む。
「最後の夜/最初の日に向う暗い時間/しずかに降る雪とともに/とおくの獣たちとともに在る夜/さだかならぬもの/冷たくまたあわれなすべてのもののなかに/形づくられてゆくこの夜」
 ゆく年くる年。「聖なる瞬間」が近づいて来る。闇の中で「死と生とが重なりあうその瞬間」だ。「『時』のなかのそのちいさな点が/われわれに襲いかかってくるまえに/なにかなすべきことがわれわれに残されているだろうか」
「おお その聖なる瞬間/われわれはただ知らされるのだ/すべての偉大な言葉はすでに言いつくされ/生の約束も死の約束の変形にすぎないことを」
 年を重ねれば、少しは大人を装えるかしらんと怪しんでいたが、案の定、悟りなど来ない。中桐が「やせた心」で「老い先が短くなると気も短くなる/このごろはすぐ腹が立つようになってきた」と言っているのは尤もだ。{・・・