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連載

Book Reviewing Globe 429

閉ざされゆく世界への富豪の憂い

2020年2月号

 ジョージ・ソロスは戦後ソ連がハンガリーを占領した際、亡命したユダヤ系米国人である。母国への思いは強い。冷戦時代の一九八四年、ハンガリーの市民社会育成に乗り出し、大学教授や大学生たちにゼロックスの複写機を寄付する活動を始めた。その活動に参画した学生団体を率い、その後、民主化運動を引っ張ったリーダーの一人がオルバン現ハンガリー首相だった。オルバンにとってソロスは最大の恩人である。しかし、オルバンはその後、ナショナリストへと変身し、二〇一〇年、首相の座を射止めた。そして激烈な“ソロス叩き”を始めた。「閉鎖社会を開放する」ことを目的とした活動拠点であるオープン・ソサエティ財団は同国からの撤退を余儀なくされた。
 オープン・ソサエティ財団のミッションにはもう一つ、「開放社会を堅固にする」ことがある。しかし、ここでも欧州連合(EU)のユーロ危機後の後退とトランプ政権の「アメリカ・ファースト」による米国の閉鎖性の高まりという挑戦に直面している。
 ソロスがオープン・ソサエティ財団を設立したのが一九七九年である。南アフリカのアパルトヘイト打倒のための資金援・・・

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