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連載

皇室の風 第138話

三箇夜餅と高群逸枝
岩井克己

2020年2月号

 元始、女性は実に太陽であつた。真正の人であつた。今、女性は月である。他に依つて生き、他の光によつて輝く、病人のやうな蒼白い顔の月である」
『青鞜』発刊の辞で高らかにうたい上げた社会運動家平塚らいてうと並び、歴史研究家高群逸枝は女性復権運動家の双璧とも言われる。
 平塚が「太陽」とすれば、控えめだった高群は「月」のような存在だが、大著『母系制の研究』『招婿婚の研究』は、史学の素人だった高群が後半生をかけ独力で諸史料を渉猟してまとめた女性史研究の開拓碑的労作だ。
 現在の皇室の結婚式は、賢所での結婚の儀、天皇・皇后に対面する朝見の儀など明治の旧皇室親族令を踏まえて行われる。明治末になって西欧のキリスト教の婚儀の影響も受けたもので、一般の神社の「神前結婚式」も大正天皇の結婚を機に広まったとみられている。
 しかし一方で皇室では平安以来の招婿婚(婿入り婚)の名残も秘めやかに織り込まれている。結納にあたる納采の儀、歌を贈りあう贈書の儀、そして三箇夜餅の儀などだ。
 元宮内庁正倉院事務所長米田雄介によると、奈良時代以前はよくわからないが、平安時代・・・