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連載

Book Reviewing Globe 430

チェルノブイリの教訓を今こそ

2020年3月号

 福島原発事故からこの三月で九年が過ぎる。事故そのものの原因、その構造的背景、学ぶべき教訓に関しては政府事故調、国会事故調、民間事故調がそれぞれ報告書を事故の後発表した。そこでの提言がどこまで生かされたのか、実行に移されたのかを、改めて検証することが望まれるところである。
 そうした時に、一九八六年四月二十六日にソ連で起こったチェルノブイリ事故の真実をこの際、学びなおすことも大切であると思う。チェルノブイリ事故はソ連の一党独裁体制特有の制度的かつ文化的問題を抜きには考えられないが、それ以上に巨大技術を社会実装するにあたって、人間社会が共通して抱えるさまざまな罠がそこに潜んでいると考えるからである。
 事故が起こった後、チェルノブイリ原子力発電所の民間防衛隊長ヴォロベフは、キエフの民間防衛当局の担当者をつかまえようと必死になって電話をしまくったが、つながらなかった。翌日朝、ようやく相手が電話口に出た。彼の最初の質問は「火事はもう消えたのか?」だった。
「火事ってどういう意味ですか?事故が起こったのですよ。住民に知らせなければならない」
「大げさにし・・・