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連載

現代史の言霊  第23話

三月の合唱 1990年( バルト三国の「歌う革命」)
伊熊 幹雄

2020年3月号

 一九九〇年
《占領されていたのだからホロコーストに加わっていない》
リトアニアの国会議員

 ヨーロッパのバルト海沿岸に並ぶ「バルト三国」は、人口、面積ともに小国だ。リトアニア約二百八十万人、ラトビア約百九十万人、エストニア約百三十万人。しかも周囲をロシア、ドイツといった大民族に囲まれていた。二十世紀以降、独立国だった時期は、第一次、第二次両世界大戦の戦間期と、ソ連崩壊後の計五十年ほどである。
 三国には、世界に誇るものがある。合唱だ。
 長く寒い夜。みんなが集まる時。人々は、よく歌った。残念ながら外国に紹介された曲は少ないが、どの曲も流麗ですがすがしく、親しみやすい。ヨーロッパの合唱コンクールでは三国の代表チームが毎年、優勝候補に並ぶ。
 ソ連から独立する運動でも、「歌」が大きな役割を果たした。
 ミハイル・ゴルバチョフがソ連共産党書記長に就任した一九八五年。自由の風が少し吹いてきた。
 この年のラトビア合唱祭では、全プログラ・・・