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連載

をんな千一夜 第36話

二人の総理を育てた「晋三の曾祖母」
石井 妙子

2020年3月号

《佐藤 茂世》

幅広く募っているという認識だった。募集しているという認識ではなかった」と総理が言う。
「私は日本語を四十八年使ってきたが『募る』というのは募集するというのと同じ。『募集』の『募』は募るという意味なんです」と野党議員は言い返す。
 小学校の教室ではない。国権の最高機関でのやり取りであることが、かなしい―。 
 総理の敬愛する祖父、岸信介は自叙伝を書き残しており、それを読むと彼ら一族の核がどこにあったのか、はっきりと理解することができる。信介はそれを「ファミリー・プライド」と表現している。では、何をプラウドしていたのか。答えは明快である。「学業優秀であること」。少しでも成績が下がると一大事となる。一族の血を引いているのに先祖に申し訳ないと責められる。その熱情は少々、すさまじいものがあった。
 岸信介は、もとの名を佐藤信介という。佐藤家は長州の田布施では知られた名家。だが、明治以降、少しずつ衰退して名門のプライドだけが残り、その証明として学業成績にこだわるようになる。
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