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経済

日本政策投資銀行に巨額損失の恐れ 完全民営化に漂う暗雲

2020年3月号公開

 悲願の完全民営化をめざし、積極投資を進めてきた日本政策投資銀行が、二〇一六年に約五百億円をかけて買収した鬼怒川ゴム工業(千葉市)の業績悪化のあおりを受け、今年三月期決算で巨額損失を計上する恐れが出ている。
 自動車の防振ゴムなどを手がける鬼怒川ゴムは、主力取引先の日産自動車が米国市場で販売不振に陥り、赤字体質に転落。中国メーカーとの取引拡大で起死回生を図ったが、米中貿易紛争の影響で中国市場が大きく減速した。
 慌てた政投銀は鬼怒川ゴムに二百億円を超える追加出資を実施し、「投資部門のエース」の富井聡取締役を会長に送り込んだが、ここに新型肺炎の流行が追い打ちをかけている。
 国が全額出資していた政投銀は電力や鉄道などの優良企業に融資していたが、「民業圧迫」の批判を受けて十二年前に株式会社化され、低金利下で融資から投資に舵を切った。パルコや参天製薬の株を売り抜けて利益を上げてきた。鬼怒川ゴムは初めて上場企業にTOBをかけた買収案件で、投資ノウハウに乏しい実態が露呈すれば、先送りされてきた完全民営化がまた遠のくのは間違いない。
 


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