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社会・文化

パンデミックに「備え無し」の日本

岩本 愛吉(東京大学名誉教授)

2020年3月号

 ―今回の新型コロナウイルス感染拡大をどう考えますか。

 岩本 いつか見た光景だ。日本人はアウトブレイクが起こると大騒ぎするが、すぐに忘れてしまう。二〇〇九年に新型インフルエンザが流行した時、水際対策の限界や、遺伝子診断など国内の医療体制の問題は指摘されてきたのにもかかわらず、今回も同じ失敗を繰り返してしまった。
 ―日本はパンデミックの備えとして何が欠けているでしょう。
 岩本 対策を遂行できる真の専門家集団だ。見習うべきは米の疾病対策センター(CDC)だろう。米国で医学研究全般をリードするのは国立衛生研究所(NIH)で、この中に感染症の基礎や臨床研究は含まれる。一方、CDCは感染症の研究もしているが、パンデミック対策や感染管理に対応するスタッフを揃えている。NIHの本部はワシントンDC郊外にあり民主党と近く、CDCの本部はアトランタで共和党寄りだ。感染症との長い闘いの歴史があり感染管理は通常の医学研究とは連携するものの、異なる独立した領域と認識されている。中国にもCDCはあり、今回の流行で多くのデータを発表・・・