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連載

皇室の風 第140話

女帝子亦同
岩井 克己

2020年4月号

 橋本義彦という平安時代史の専門家の話を以前に本欄で書いた。宮内庁書陵部で皇室制度調査室長、編修課長などを歴任した学者で、生前に何度か知恵を借りに足を運んだ。
 皇太子(現天皇)結婚から数年経ってもコウノトリの舞い降りる気配なく、次第に「皇統の危機」が意識され始めた時期だった。
 橋本は平安時代に中国に渡った仏僧成尋や奝然の記録などから、その時代には既に天皇歴代と男系一貫の皇統観がほぼ確立していたことを著述で紹介していた。気が遠くなるほど分厚い皇室史に長年接しただけに「男系皇統は守るのが当然」という考えだった。
 天皇の正統性の根源ともされてきた男系血統という“聖域”に手を付けるなど、当時の皇室、宮内庁内では思いもよらないことだったのである。
 一千数百年の間に、日月星辰の運行のように定まった皇統原理に従った夥しい天皇・皇族らの運命と哀歓の積み重なりはいったい何だったのか。天皇・皇族らの「祖」、仕えた人々、戦った人々の累々たる積み重なりが、祭祀などで蘇る「生き続ける祖霊」から、死んで二度と蘇らぬ化石となり、皇室が日々厳修し・・・