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連載

Book Reviewing Globe 432

気候変動への実存的挑戦の道

2020年5月号

 新型コロナウイルスの世界的危機を前に、地球環境問題はどこかへ消えてしまったかのようである。ついこの間のダボス会議はこの問題一色だったのではなかったのか。いや、むしろ大恐慌の到来で経済、産業活動が停止すれば、二酸化炭素の排出量が急減し、気候変動問題は当面、出番なし、といった見方も出始めている。
 しかし、現実はそう簡単ではない。新型コロナウイルスのような感染症は今後、気候変動によってさらに頻繁に襲来するかもしれない。今回の危機では各国のエゴの衝突、米中のさらなる対立、グローバル・ガバナンスの崩壊、さらには国内の格差、インフラ腐朽、医療現場の弱体化などが露わになった。これらは、気候変動への取り組みを一層難しくする要素でもある。このままでは温暖化によって二〇五〇年までにインド、パキスタン、バングラデシュなどの「南アジアで八億人の生活水準が劇的に劣化する」(世界銀行)との現実は変わらない。
 気候変動を実存的な危機として取り組むには、各国ともそれを国家危機と位置づけて国内の政治課題と政治勢力の再編をしなければならない。
 特に、欧米先進国で顕著な右と左のポピュリ・・・