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連載

大往生考 第5話

「人工呼吸器」の現実

2020年5月号

 こんなに暗いゴールデンウィークになろうとは、年初に予想した日本人はいただろうか。新たな感染症に対して、世のムードが一変したのは、三月二十九日にタレントの志村けんさんが亡くなってからだろう。
 三月十七日に倦怠感を自覚し、その二日後に発熱と呼吸困難が出現した。二十日に港区の病院に入院。重度の肺炎と診断され、二十三日にはPCR検査の結果、新型コロナウイルスの感染が判明した。集中治療の甲斐なく二十九日に呼吸不全で亡くなった。発症からわずか十二日間、急速な展開だった。
 実は、志村さんがたどった経過は新型コロナウイルスによる死亡の典型だ。
 志村さんは享年七十。高齢者の肺炎は、新型コロナウイルスに限らず、致命率が高い。一旦、肺炎を発症すると一〇%程度が亡くなり、快復したとしても四割程度は日常生活動作(ADL)が低下する。
 志村さんのように人工呼吸管理となった場合、回復率はさらに下がる。東京都多摩老人医療センター(現・多摩北部医療センター)が、七十歳以上で人工呼吸管理を受けた九十七人の経過を分析したところ、三十八人は人工呼吸器を離脱できずに死亡、二十三・・・