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連載

現代史の言霊  第27話

七月の虐殺 -ボスニア・ヘルツェゴビナ スレブレニツァ事件(一九九五年)
伊熊 幹雄

2020年7月号

《 国連のできることに幻想を持たないでほしい》
明石康
(元国連事務総長特別代表)

 イタリア半島からアドリア海の対岸の地域は、三十年前には「ユーゴスラビア」と呼ばれていた。セルビア人、クロアチア人、スロベニア人と、アルバニア系を除けばスラブ系の言葉を話す人々だ。
 特徴は背の高さだ。スラブ系は特に、成人の平均身長が、男性百八十センチ半ば、女性百七十センチ超。大男たちには、徒党を組み、体を鍛える伝統がある。
 世界史で習う、ガブリロ・プリンツィプ。一九一四年にオーストリア=ハンガリー帝国の皇位継承者フランツ・フェルディナント大公をサラエボで暗殺した。プリンツィプは政治結社「青年ボスニア」に所属した。この地域はその後八十年以上、二つの世界大戦、共産党政権樹立、国家分裂と様々な経験をする。この間、結社・徒党の伝統はずっと残った。
 筆者が頻繁に訪ねた一九九〇年代。セルビアの首都ベオグラードの街中では、悪童集団や愚連隊が我が物顔ではびこった。こうした乱暴者が「セルビア人民兵」の・・・