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連載

大往生考 第14話

優しい医療とは何か
佐野 海那斗

2021年2月号

「私の母が受けた治療は正しかったのでしょうか」
 七十代の女性患者の娘から質問を受けたことがある。娘は薬剤師で、母親が受けた治療に疑問を抱いていた。
 母親は二〇〇六年から高血圧、高脂血症で、私の外来に通っていた。〇九年に悪性リンパ腫、一四年に乳がんを発症し、専門病院に紹介した。前者は抗がん剤治療で治癒し、後者も手術と抗がん剤治療を受け、経過は良好だった。その後、がん専門病院の受診は半年に一回程度に減り、私の外来を受診するようになっていた。
 患者に変化が起こったのは、一九年十二月のことだ。「乳房にしこりができて、大きくなってきている」と相談を受けた。診察したところ、しこりは硬く、表面は潰瘍を形成していた。典型的な乳がんの再発だ。私は前出のがん専門病院に電話した。
 ところが、乳がんの治療を担当した医師は辞めていて、彼の後任の部長に相談したが、「現在、満床ですぐに引き受けることはできない」と言われた。このまま経過を見るわけにもいかず、困り果てた筆者は、大学時代の同期の医師に相談し、別の総合病院の医師を紹介してもらった。
 この医師は四十・・・