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連載

本に遇う 第255話

記者シーハンの戦い
河谷 史夫

2021年3月号

 スピルバーグの映画『ペンタゴン・ペーパーズ』を観た人なら、ニューヨーク・タイムズが何か大スクープをしそうだと聞いたトム・ハンクス扮するワシントン・ポスト編集主幹のブラッドリーが「おい、最近ニール・シーハンはいたか」と、部下にただす場面を記憶しているかも知れない。
 時は一九七一年初夏、あるならヴェトナム戦争がらみ、やるならシーハンではないか。それがここしばらく大統領会見にも国務省会見にも姿を見せないと知って、ブラッドリーはいやな予感を覚えるのだが、日ならずして国防総省機密文書の暴露という大抜かれに横っ面を張られるのである。
 並みの監督なら、出し抜いたタイムズを描いたであろうに、抜かれたポストに焦点を当てたのがスピルバーグの秀抜な着想だったが、ために本来の主人公たるシーハンはちらとしか出て来ない。
 シーハンが一月七日、八十四歳で死去した。六〇年代のヴェトナム戦争を取材。七一年に米国介入の経過を検証し、歴代政府が状況を正しく伝えていなかったことを示す機密文書を特報した。時のニクソン政権は記事差し止めを求めたが、連邦最高裁が「報道の自由」を理由に却下。政府・・・

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