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連載

西風 482

綺麗になり過ぎた瀬戸内海

2021年7月号

 美しい海が、必ずしも豊かな海ではない。高度経済成長期に各地で海洋汚染が深刻化したが、近年は企業や自治体による環境保全の取り組みが広がり、どこの海も以前より格段に綺麗になっている。それにより困り果てているのが、瀬戸内海の漁業関係者だ。
 六月三日、衆議院本会議で「改正瀬戸内海環境保全特別措置法」(瀬戸内法)が可決、成立した。これは、綺麗になり過ぎた瀬戸内海の水質を少しだけ元に戻そうという法律なのだ。
 かつて、瀬戸内の海にはろくに処理されていない生活排水や工場排水が流れ込んでいた。それにより特に窒素やリンなどの「栄養塩類」が増加し富栄養化してしまい、プランクトンが大発生して、いわゆる赤潮の原因になった。一九七六年には年間二百九十九件もの赤潮が発生。赤潮を起こすプランクトンは水中の酸素を大量に消費するため、養殖魚を死滅させ、社会問題化した。
 七三年「瀬戸内法」が制定され、重金属や化学物質の垂れ流しはもちろん、栄養塩類の放流も厳しく規制した。その結果、水質は改善してきたが、反動として水中の栄養塩類が減り過ぎて、プランクトンを摂って成長する小魚や貝類にも影響が・・・