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連載

大往生考 第20話

白血病患者の「臨死体験」
佐野 海那斗

2021年8月号

 四月、立花隆氏が八十歳でこの世を去った。筆者は大学時代から二十代にかけ、立花氏の著作を読み漁った。「調べて、書く」姿勢を貫き、権力者から最先端科学にまで切り込んでいく姿がまぶしく映った。繰り返し読んだのは一九九四年に出版された『臨死体験』だ。なぜ筆者が、この本に興味をもったのか。それは、臨死体験を経験した患者を担当したからだ。
 患者は二十代の男性だった。慢性骨髄性白血病の第一寛解期で、骨髄移植目的に、我々の病院に紹介されてきた。当時、筆者は血液内科をローテートしており、上司である五十代の部長と研修医と三人で、この患者を担当した。
 慢性骨髄性白血病は血液のがんだ。ただ、競泳の池江璃花子選手が罹患した急性リンパ性白血病と違い、慢性期の間は血液検査をすれば、白血球が増加している以外、全身状態は健康人と変わらない。だから、先人は「慢性」の白血病と考えた。問題は、やがて白血病細胞が急速に増加し、「急性」の白血病へ進行してしまうことだ。これを急性転化と呼ぶ。十年ほどの間に全員が急性転化し、抗がん剤治療では救命できない。
 不治の病だった慢性骨髄性白血病の治療は、・・・