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連載

現代史の言霊  第40話

八月の謀反 -ソ連クーデター失敗(1991年)-
伊熊 幹雄

2021年8月号

《あなたは生きていらしたのですね》
ボリス・エリツィン(ロシア元大統領)


 新聞社の正午は、夕刊の骨格が固まる頃だ。米国は深夜、欧州は未明。外報部の魔の時間である。
 タス通信がそんな時、カタカタと動いた。一九九一年八月十九日のことだ。筆者があわてて見ると、「国家非常委員会」という機関の声明で、「ミハイル・ゴルバチョフを大統領職から解任」とある。
 ソ連でクーデターだ。
 デスクは「特派員に電話して」と言う。相手は眠っていたが、「なんだ、それ」とすぐに目が覚めた。社会部や政治部のデスクが集まってきて、「ソ連大使館に記者を出そう」「日本政府の反応が必要だ」と大騒ぎになった。あっという間に一面、社会面の大展開になった。

背中を押した「盗聴記録」

 この時、ゴルバチョフは、クリミア半島にある黒海沿いの保養地に、夫人、娘夫婦、二人の孫娘たちといた。通信を遮断され、軟禁下に置かれていた。非常委員会には、治安機関「・・・