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連載

をんな千一夜 第53話

女性初映画監督の流転
石井 妙子

2021年8月号

《レニ・リーフェンシュタール》

 オリンピックにはスポーツ選手だけでなく、「芸術家」たちも大勢、関わっている。国家の一大イベントに抜擢され、その才を披露するのだから、きっと栄誉なことに違いない。
 しかし、この度の東京五輪では、その栄誉に与った人たちの、誠に残念な、あるいは許しがたい一面が次々とあからさまになった。大会公式エンブレムを制作したデザイナーの「パクリ疑惑」。開会式統括者の容姿侮辱発言と楽曲を担当するミュージシャンの犯罪的な障がい者いじめ、止めは開閉会式演出家のホロコースト発言。
 スポーツの祭典を芸術の力によって盛り上げ、国の威信をいっそう高める、というスタイルは一九三六年に開かれたベルリン大会でナチスによって確立された。聖火をランナーが松明のように掲げてリレーし聖火台に着火するという演出も、この時に発案されたものである。
 ナチスドイツは芸術の力を巧妙に政治利用した。ヒトラー自身は画家志望であったし、右腕とされたゲッベルス宣伝大臣も、もとは文学肌で戯曲家を目指していた人物である。そんなふ・・・

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