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連載

本に遇う 第261話

立花隆の最高傑作
河谷 史夫

2021年9月号

 新聞にいたころ、記者になりたいという青年が訪ねてくることがあった。「調査報道をやりたい」とか「環境問題をやりたい」とか、いずれも意気盛んである。
「初歩は地方の警察回りだ。サイレンが鳴れば火事場へ走る。殺しと聞いたら現場へ飛ぶ。夜討ち、朝駆けもしないといけない。君、それができますか」と言うと、事志と違うという顔をするのがいた。
 立花隆に警察回りをやらせてみたかった。「田中角栄研究」から二年後の『文明の逆説』のなかに、自分の方法論に触れて、こんなことを述べていたのである。
 まず自らを「野次馬」と定義する。「『こと』が起きたら、とにかく現場にできるだけ早く駆けつける。次に『こと』が起きている範囲を見きわめ、その全体像がながめ渡せる見晴しのきく場所を確保する」とし、次に「人波を押しわけかきわけ、とにかく一番前の一番よく見える場所に強引に割り込んで、ひたすら熱心に見物する」。
 これはそっくり警察回りの心得だ。ただし自分の興味次第で「こと」を選べるのと、無関心事の現場にも行かねばならないのとでは大きな違いがある。就職の際、朝日新聞にいた二歳上の兄に・・・

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