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連載

現代史の言霊  第42話

十月の炭疽 -炭疽菌殺傷事件(2001年10月)-
伊熊 幹雄

2021年10月号

《彼は関心のある人物だ》
 ジョン・アッシュクロフト(元米司法長官)
 
 約三千人の死者を出した米同時多発テロ事件から、一週間後の二〇〇一年九月十八日。
 何者かが、ニュージャージー州トレントンの郵便ポストに、炭疽菌入り封筒を投函した。配達先のABCなど全米三大ネットワークやニューヨーク・ポスト紙で、相次いでばたばたと人が倒れた。
 空前のテロ攻撃の後には、目に見えない生物兵器だ。十月六日には最初の死者が出た。
 その数日後には、今度はトム・ダシェル上院院内総務とパトリック・リーヒー上院情報委員長の事務所に、同じような炭疽菌入り封書が届いた。封書には「米国に死を」「イスラエルに死を」「アラーは偉大なり」の文句があった。米国はパニックを通り越し、集団ヒステリーに陥った。
 連邦捜査局(FBI)と中央情報局(CIA)は、新たに大規模捜査班を組んだ。国際テロ組織「アルカーイダ」のほかに、イラクのサダム・フセイン大統領が、事件の背後にいるとの見方が出た。
 一・・・