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連載

大往生考 第23話

働き盛りの予期せぬ急死
佐野 海那斗

2021年11月号

 新型コロナの第五波では、亡くなった人の約三割が六十歳以下で、その八割が男性らしい。今夏、多くの働き盛りの男性が予期せぬ死を迎えたことになる。五十代の死と言えば、筆者には忘れられない経験がある。二十年ほど前、私の指導医が急死した時のことだ。
 彼と初めて出会ったのは、私が大学病院で研修医をしていた時だ。当時、彼は米国留学から帰ってきたところだった。留学中に書いた論文が欧米の一流学術誌に掲載され、自他ともに認める将来の教授候補だった。
 典型的なハードワーカーだった。朝七時には病棟を回診し、夜は日付が変わるまで研究室で働いた。診療のための調べもの、学会発表の準備や論文執筆は無論のこと、上司である教授からの様々な雑用まで引き受けていた。
 研修医の指導にも多くの時間を割いた。一緒に担当する患者の状態が悪化したとき、私がカルテとレントゲン写真を持参して研究室を訪ねると、丁寧に病態を説明し、具体的な指示を出してくれた。指導は厳しいが、理性的な人だった。
 ただ、彼は自らの健康には無頓着だった。ヘビースモーカーで、机の上には、よく栄養ドリンクが置いてあった・・・