三万人のための情報誌 選択出版

書店では手に入らない、月刊総合情報誌会員だけが読める月間総合情報誌

社会・文化

《日本のサンクチュアリ》国産ワクチンの「巨大利権」

コロナに乗じた「大損」公共事業

2021年12月号

  国民の健康を守るために感染症ワクチン確保の態勢を整えておく重要さを各国が新型コロナウイルスとの戦いを通じて学ぶ中、かつてワクチン製造の先駆者だった日本が、過去の「財産」と使わない「備蓄」がもたらす利権にあぐらをかいて動かない。このままでは、「国産ワクチンの増強」は掛け声倒れに終わること必至だ。
 岸田文雄総理大臣は十月八日の所信表明演説で「国産ワクチンや治療薬の開発など、危機管理を抜本的に強化する」と訴えた。六月に菅義偉政権で閣議決定した「ワクチン開発・生産体制強化戦略」を踏襲したもので、国内のワクチン製造拠点の整備をはじめ将来のパンデミックに備え、ワクチンの自給自足体制の確立を目指す。
 二〇〇九年の新型インフルエンザ流行の際も、一握りの富裕国が世界の大部分のワクチンを独占した。新型コロナ対応で日本は、出足の遅れを取り戻す急ピッチのワクチン確保と接種を進めたが、国内にワクチンメーカーがなく輸入に頼らざるを得ないイスラエルなどと違い、複数のメーカーが国内にあるのだから、開発体制が堅固なら慌てる必要はなかった。体制強化の目標は正しく見える。
 ・・・