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連載

大往生考 第28話

医療事故とどう向き合うか
佐野 海那斗

2022年4月号

 高度な医療に関わる医師ほど、医療ミスや事故は避けて通れない。最悪、刑事事件になることもある。避けがたい事故に、医師はどうやって対応したらよいか。幸い、私は刑事事件や民事訴訟の経験はないが、何度か医療事故の当事者になっており、遺族からカルテ開示・証拠保全を求められたこともある。一例を振り返ってみたい。
 患者は七十代の男性だった。当時、私は首都圏の総合病院で内科医として働いていた。この患者は、都内の病院で肺がんを手術し、その後、高血圧・高脂血症の管理のため、私の外来に通っていた。
 この人物は、地元の大学を卒業後、市役所で働いていた。定年後は関連団体で勤務した後に、年金生活を送っていた。妻も高血圧を患っており、夫婦揃って私の外来に通っていた。二人とも温厚な性格で、ある時の診察では、趣味で撮影した鳥の写真をプレゼントしてくれた。共にバードウオッチングが趣味で、国内各地を撮影旅行で巡っていた。
 ある日、夫の方が「これまでに経験したことがない胸の痛み」を訴え、病院に連絡してきた。患者の父は急性心筋梗塞で亡くなっている。高血圧・高脂血症などの危険因子もあるため、・・・