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連載

をんな千一夜 第62話

憲法「男女同権」の生みの親
石井 妙子

2022年5月号

《ベアテ・シロタ・ゴードン》

 ロシア軍のウクライナ侵攻を連日、メディアが報じている。停戦を促す声は弱腰、民主主義の敗北と批判されがちで、ウクライナの抵抗が煽情的に礼讃され、日本も核武装すべき、憲法改正すべきといった声もまた、聞かれるようになった。
 憲法といえば、戦争放棄の第九条や天皇に関する条文ばかりが注目されがちであるが、最も先駆的な特長は人権条項、とりわけ欧米に先んじて男女同権が明記されたところにあると言われている。
 その陰には当時二十二歳だったベアテ・シロタの存在があった。両親はウクライナ(当時はロシア)のキーウ(キエフ)生まれ。ロシア系ユダヤ人だった。
 ベアテの父レオは「リストの再来」と言われた天才ピアニスト。ロシア革命を逃れてオーストリアのウィーンに渡り、一九二三年に長女ベアテが生まれる。レオは欧州でのユダヤ人排斥運動の高まりを見て、五歳のベアテと妻を伴い来日。以前に演奏旅行で訪れ、日本に好印象を抱いていたのだ。欧州での輝かしいキャリアを捨てる決断でもあったが、東京音楽学校(現・東京藝術大学)に教授として迎えられ、日・・・