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社会・文化

ローカル鉄道「一挙廃線」が間近に

消えゆく日本の旅情

2022年5月号

 用もないのに、ローカル線に乗るためだけに島根県まで出かけた。
 目指すは、一部区間で一日に十八人(一キロ当たりの平均利用者数)しか乗客がおらず、存亡の機に立たされている木次線(宍道-備後落合、八十一・九キロ)と収支率〇・四%(百円稼ぐのに二万六千九百六円かかる)という芸備線(備後落合-東城間)だ。
 空港からタクシーで始発のJR宍道駅に急ぐと、窓口で切符を売っていない。コストカットのためとはいえ、不便この上ない。仕方なく、自動券売機に備え付けられたテレビ電話でオペレーターに「木次、芸備線経由東京まで」と告げると、「本当にこの線で行かれるんですか」と聞き返された。「この線に乗るためだけに来たんです!」と教えてやりたかったが、我慢、我慢。
 やっとの思いで、午前九時九分発木次行きのキハ一二〇形気動車に乗り込むと、そこから先は別世界だ。
 エンジンを目一杯うならせ、SLを彷彿とさせる汽笛をならして列車は、すぐ里山に分け入った。鮮やかなピンクの八重桜がまぶしい。遠くで子どもと母親が列車に手を振ってくる。もちろん、こちらも振り返す(東京では、恥ずかしくて・・・